ようこそ、金地院へ
金地院は、南禅寺のすぐそばにありながら、驚くほど静かなお寺です。
ここの「鶴亀の庭」には、他の有名な庭にあるような禅問答の答えを探す窮屈さや、見方を気にするめんどくささは一切ありません。
難しい理屈は抜きにして、ただ、ぼーっとながめる。
それだけで心がふんわりといなされていく、私にとって京都でいちばん落ち着く場所です。

学生のころから何度も何度も……。疲れたとき、考えごとが多いとき、なんだか嫌になって京都に逃げてきたとき、自然と足が向く場所でした。
それくらい、金地院はぼーっとできる場所なのです。
南禅寺のすぐそばの別世界
南禅寺は、名前を聞いたことがある方も多いでしょう。
赤レンガの水路閣が有名で、観光客でいつもにぎわっています。

金地院は、その南禅寺の塔頭(たっちゅう)として、南禅寺の参道にあります。
南禅寺の喧騒からほんの数分離れるだけなのに、空気がすっと変わります。
時間をゆるめる「明智門」

明智門をくぐり、左へ進むと、小さな滝があります。
水の音が、自然と耳に入ってきて、気持ちが落ち着いていきます。
あたり一面は苔。このあたりから、どっぷり「京都」につかれます。

きらびやかさゼロの「黒の東照宮」
お寺の中なのに、鳥居をくぐるのも金地院らしいところです。

その先に現れるのは、漆黒の東照宮。
日光東照宮のきらびやかさを思い浮かべると、ずいぶん控えめに感じるかもしれません。お寺ってことで、黒にしたとのこと。
そう、ここは禅宗のお寺。そこで、あえての「黒」。それがまた、静けさをつくっています。

金地院は、家康に仕えた金地院崇伝が、三代将軍・家光から伏見桃山城の一部をもらい受け、それを移して建立したお寺だそうです。
その名残として、先ほど紹介した「東照宮」がここにもあります。
二人にはこんなやり取りがあったかも。

崇伝さん、じいが世話になったね

いえいえ、滅相もないことで

伏見桃山城の建築物あげるから、お寺でもつくれば。あ、東照宮も忘れずに

ありがたきしあわせ

できたら、教えてね。京都に行くから!

もちろんですとも!
お目にかかれるのを
楽しみにしております
しかし、それはよくある話ですが、お寺ができてから1年も経たずに崇伝は亡くなり、家光を迎えることはかなわなかったとか。
茶室「八窓席」、狩野探幽の「鳴龍」、長谷川等伯の猿が水面に浮かぶ月をすくい取ろうとしている「猿猴捉月図」など、家光を迎える気満々のできばえでしたが……。
ちょっとやるせないですね。

禅宗だから真っ黒にした東照宮。でも、その裏手に回れば、いつもの神社の「朱」の佇まい。大人の事情も見え隠れしていて、趣深いです。
考えない、ただ見る「鶴亀の庭」
方丈の縁側の前に広がるのが、「鶴亀の庭」です。
縁側に腰かけても、本堂から座って眺めてもいい。
自分が落ち着く場所を見つけてください。

京都には有名な庭がたくさんあります。
禅宗のお寺の庭というと、
見る角度によってとか、
虎の子がどうとか、
あの石が表しているのはとか、
なにか考えなくてはいけないんじゃないかと、少し身構えてしまうことがあります。

でも、鶴亀の庭はいたってシンプルです。鶴がいて、亀がいる。
左に亀を石で表す亀島。松の木の下です。右は鶴を表す鶴島。白砂が海洋を表す。その後に小高い丘で山を、さらにその後に見える東山を借景にして深山幽谷を表しています。
この庭は、禅問答などの深く難しく考えることもなく、ただそこにある庭を愛でる。それだけでいいような気がします。
すーと息をすいこみ、ゆっくりとはき出す、そんな呼吸になります。
ぼーっと見ていても、それでいいよと受け止めてくれる。
それがこの庭のよさだと、わたしは思います。
冬に来たご褒美
いつもの落ち着く気配にたたずんでいると、初めて冬に来たプレゼントがありました。
白砂がきらりきらりと輝くのです。
ダイヤモンドダストの白砂版とでもいいますか、すごくすてきな輝きです。

なにもしない時間
庭の上を流れる雲を、ただ眺めるだけ。
それだけで、十分です。

「亀はわかったけど、鶴はどこ?」
そう思った方は、ぜひ現地で探してみてください。
答えは、特別拝観のガイドさんが教えてくれます。
アクセス
【金地院(こんちいん)】
京都市左京区南禅寺福地町86-12
地下鉄東西線「蹴上駅」 下車、徒歩約10分
行くことになったら、このあたり

